医療体験

医療におけるカスタマーエクスペリエンスとは | 基礎と理論を解説

公開日:2021/12/26

最近、顧客体験・カスタマーエクスペリエンスという言葉を医療とは異なる業界から耳にすることも多くなってきたのではないでしょうか?
今回は、顧客体験やカスタマーエクスペリエンスとは何なのか、それらを改善する前にまずは理解したい、といった方々に向けて、そもそも顧客体験や患者満足度とはどういったものか、学術的な観点を交えながら、解説いたします。

医療におけるカスタマーエクスペリエンス(Customer eXperience)とは

サービスエクセレンス、そして近年ではカスタマーエクスペリエンス(CX)という概念が徐々に市場に認知されてきました。巷ではデジタルトランスフォーメーション(DX)という概念が独り歩きしている感が否めないものの、DXの産業横断的な導入と進展が、カスタマーエクスペリエンス(CX)の認知と導入の容易さを向上させていることが注目に値します。
DX導入の流れに沿って、CXの導入を推進することで、いわゆる「顧客体験」の向上と顧客満足度の向上、および満足度の定量的把握を推進することで、顧客体験の正の連鎖による向上が期待できます。
これは医療における「患者体験」と患者満足度の向上にも直接的に貢献するもので、これを推進することにより、今までおざなりにされてきた患者体験の継続的向上および改善に寄与するであろうことは疑う余地はないかと想定されます。
弊社ではこの「顧客体験」の向上に資する施策、開発、コンサルティング、現場でのサポート、それを改善するソフトウエアを販売しており、医療機関に幅広く啓蒙および導入に貢献することを目的としています。医療の現場では患者さんエンゲージメントを高める、そして医療従事者が患者さんエンゲージメントを向上させる力を高める、ということにつながります。

CXの歴史と理論

昨今デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉がもてはやれていますが、デジタルへの変革は今に始まったことではなく、30年以上前から議論されています。特に日本というガラパゴス国家において如何に世界標準レベルでの情報技術進化と進展を行うべきか?は国の存亡をかける至上命題とみなされてきました。それがやっと国民的・学際的認知を受け、やっと今社会的認知を受け、国家予算も大きく上積みされている現状は、海外との差を感じずにはいられません。
国の政策は、予算をかければ追いつけるだろう、的観点にしか見えず、IT化、ICT化、アプリ化、アウトソーシング事業の予算規模は、成果に見合わないほどの程度となっており、医療機関のIT化を推進する弊社から見れば、他国で実現できる予算と一桁や二桁異なる予算規模で同程度の仕様を実現しているとしか思えません。

DXとは別により古くから社会的認知を受けているものとして、顧客満足度があります。この顧客満足度を定量的に把握することが何度となく試みられてきました。リッカート尺度での評価を分析するところからの大きな進展はなかったところ、米国における「Expectation-Disconfirmation Theory(期待不確認理論)」(Richard L Oliver,1977,1980)の展開により、それを理論的支柱とする顧客満足の指標化が行われるようになりました。以後多くの経営学・経済学関連論文において、指標分析と理論的展開が行われるようになり、ようやく日本国内においても徐々に進展してきているように思います。

この期待不確認理論は、単純なリッカート尺度から、統計モデリング手法の一つである構造化方程式を使用してモデル化され、世界各国にてそれぞれのモデルで具現化されています。主要なものに、

  • SCSB(The Swedish Customer Loyalty Barometer)1989~
  • ACSI(American Customer Satisfaction Index: 米国顧客満足度指数)1994~
  • EPSI(The European Performance Satisfaction Index: 欧州顧客満足度指数)1997~
  • NCSI(National Customer Satisfaction Index: 韓国国家顧客満足度指数)1998~
  • 日本国内においてはJCSI(Japanese Customer Satisfaction Index)1991~

が前述期待不確認理論を元に独自の構造化方程式モデルが公益財団法人 日本生産性本部(https://www.jpc-net.jp/research/jcsi/causal_model/world_csi.html)による調査のもと運用され、毎年の調査結果が産業別に公表され、顧客満足度のベンチマーキングとして有効利用されています。

出展:Expectation-Disconfirmation TheoryRichard L Oliver,1977,1980

Expectation-Disconfirmationの理論基本は期待値の比較であり、購入前の期待(Expectation)と購入後の効用(Performance)とが、どのような関係、いわゆる因果関係を持つのか?によって満足度が決定されるとするものです。
米国においては多くの産業分野においてベンチマーキングが行われており、同一指標のベンチマーキングにより組織や従業員の目標達成として、また企業戦略実現におけるバランスドスコアカード(BSC)の一大目標として定義されていることが多くあります。一方で、顧客サービスの基準が等しく高く、顧客を重要視している日本国内において米国ほどにはこの指標が利用されていないのは非常に不思議であります日本国内においては、定量的満足度分析よりは、お客様の声として定性的把握が主流となっている状況を多く目にします。

医療現場での患者さん満足度と患者さんの顧客体験とは

医療においても、顧客満足度のための顧客体験に代えて、患者さん満足度のための「患者体験」が評価分析され、かつ患者の期待度を診療前後に渡りいかにして維持管理していくのかは、米国におけるMayo Clinicにような事例を元に、現在および今後の予測される社会経済的変化からしても考慮されるべき時期が来ているものと思われます。

しかしながら、医療業界における患者さんの満足度については長年無視に近い形で取り扱われ、患者さんの不満が医療サービスおよび医療そのものの向上に寄与する機会を失ったままとなっており、患者さん満足度の向上および患者さんの顧客体験の向上に寄与する医療サービスという考え方は、最近の医療DXの導入開始まで蔑ろにされてきてしまったと思われます。
患者さんはその不満をSNSや口コミなどをはけ口として利用し、負の連鎖となるリスクを常に抱えている状態と言えるでしょう。このネガティブをポジティブの連鎖に変えることが、やっと今少しずつ身近になったデジタル技術を導入することにより実現可能な時代が来ていると言えるでしょう。

まとめ

古の昔、ローマ帝国の著名なスコラ哲学者であるセネカは、

「期待しなければ失望もない」

として、自身が家庭教師をしていた皇帝ネロから死刑宣告を受けた心情を哲学としましたが、それでは低きに流れるだけで産業自体の存続が危ぶまれます。患者さんの期待値を維持し、かつそれを超越することが現在および未来の医療には求められています。これこそが、産業の存続と市場からの信頼を勝ち得ることに他なりません。
医療従事者も患者さんも、医療はサービスであるということを徐々に認知しており、サービスであれば当然にサービス受け手の満足度を考慮しなければならず、その満足度がどのレベルにあるのかを確認することはサービス提供者としての義務である、と言えるでしょう。サービスの提供者と受け手との間の正の連鎖が、より良い医療サービスとして改善されることにより、日本の医療サービスの国際競争力は高まり、国内産業のみならず海外市場および輸出産業へと発展していく可能性もあることは非常に重要な視点であることを忘れてはならないと考えています。

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WISHealthでは、医療体験を改善するPatientSuccess™️の開発、医療機関への実装、それに付随するコンサルティングとハンズオン支援を通じて、患者さんエンゲージメントを高めます。ソフトウエアだけでなく、医療現場で弊社チームが現状の把握と改善の実践サポートをすることも可能です。
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執筆

根岸賢直
Board Director
MSc, MBA, CISA, CISSP
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参考文献

小野譲司(青山学院大学), 2016. サービス・エクセレンスと顧客戦略:累積的顧客満足モデルによる分析. 日本商業学会特集論文 18, 2–31.
小野譲司(青山学院大学), 2016. サービス・エクセレンスと顧客戦略:累積的顧客満足モデルによる分析. 日本商業学会特集論文 18, 2–31.